2011/01/25 (Tue) 17:51
文藝春秋
2010年10月
西新宿の小さな中華料理屋「翡翠飯店」を巡る三代記。祖父母、両親、無職の叔父、孫に加えて、常に誰かしら出入りするゲストハウスさながらの大家族の足元には、大陸帰りの物語が眠っていました。祖父の死で虚脱してしまった気丈な祖母ヤエを伴った満州行が、封印された過去への旅の幕開けとなります。戦争、引揚げ、戦後を生き抜き、半世紀の間ヤエが抱えてきた思いを知った時、私たちが失いつつある美しい何かが頁の向こうに立ち上がってきます。
3代に亘る壮大な物語で、読み応えがありました。
現在と過去が交互に展開され、その切り替わりが絶妙で、長い物語でありながら飽きさせません。
この藤代家には、世間一般に言われるような成功した人はいないと思います。
みんな何かしら愚かなことをやって、無様な姿を見せて、それでも苦しみながらなんとか生きています。
ヤエさんは孫に、後悔したことある?と訊かれ、こう答えます。
「いや、ないよ。だってあんた、もし、なんてないんだよ。後悔したってそれ以外にないんだよ、何も。私がやってきたことがどんなに馬鹿げたことでも、それ以外はなんにもない。無、だよ。だったら損だよ、後悔なんてするだけ損。それしかなかったんだから」
人のせいにするわけではなく、時代のせいにするわけでもなく、自分のしたことから目を逸らさずに生きていく。それが、人としての正しい生き方かもしれませんね。
いろいろ考えさせられる本でした。
内容★★★★
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