2011/04/20 (Wed) 09:33
2010/12/10 (Fri) 09:27
幻冬舎
2010年9月
あれは本当に事故だったのだと、私に納得させてください。高校卒業以来十年ぶりに放送部の同級生が集まった地元での結婚式。女子四人のうち一人だけ欠けた千秋は、行方不明だという。そこには五年前の「事故」が影を落としていた。真実を知りたい悦子は、式の後日、事故現場にいたというあずみと静香に手紙を送る―(「十年後の卒業文集」)。書簡形式の連作ミステリ。
中編3作が収録されていて、あらすじのように連作というわけではありません。あくまで関連は手紙形式というだけ。
しかし、いつもながらに引き込み方がうまいですね。読み始めてすぐ世界に入っている自分がいます。
それぞれの立場でのそれぞれの捉え方。それぞれの考え。
湊さんの得意とするこういう形式は、いろいろな角度から物事が見られて、とても興味深いです。変わらず続けて欲しいな、と思います。
真実が徐々に明らかになっていくそのバランスも素晴らしいと思うし、締めもしっかりしているように思います。
人物の書き分けもうまく、混乱することもないし。
基本悲劇なんだけど、今回珍しく(?)終わりに希望が持てるのがいい感じです。
内容★★★★
2010/09/18 (Sat) 21:40
双葉社
2010年6月
父親が被害者で母親が加害者―。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と、向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。
直接的な攻撃ではなく責めでもないのだけれど、じわじわと感じさせるプレッシャー。それをしている側は、無意識のうちに態度の端に出してしまっていって、自覚がない。だから攻められている側の気持ちにも気付かない。そんな微妙な心理が巧みに描かれていると思いました。
しかし、湊かなえさんの描く登場人物は、リアルなだけに、いい人と簡単に言ってしまえる人は皆無で、みんなドロドロしてますね。だから人間か…。
真相がなかなか明らかにならず、最後まで飽きさせないのも見事ですが、死んでしまった人よりも今を生きている人、みたいな理想よりも現実的な終わり方もよかったと思います。
今も日本ではいろいろな事件が起きていますが、報道だけでは本当の真相というか動機なんてわからないんだよなぁ、なんて考えてしまいます。
内容★★★★
2010/05/20 (Thu) 02:00
早川書房 ハヤカワ・ミステリワールド
2009年1月
高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。彼女はかつて親友の自殺を目にしたというのだ。その告白に魅せられた二人の胸にある思いが浮かぶ――「人が死ぬ瞬間を見たい」。由紀は病院へボランティアに行き、重病の少年の死を、敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとする。少女たちの無垢な好奇心から始まった夏が、複雑な因果の果てにむかえた衝撃の結末とは?
人の悲しみや死について考えているかと思えば、次の瞬間には欲しいバッグのことなんかを考えているあたり、現代の若者らしさが出ている気がしました。
彼女たちにとっては、それらはすべて同じ重要度なのでしょう。というか、そんなことさえ意識していないのかもしれません。
ただ、そういうリアルな点とは裏腹に、あまりにも偶然が重なり合いすりていて、やはり小説の中のお話だと感じさせてしまうのが残念でした。
でも、痴呆症の老人の話など、読んでいてつらい、これからの日本の抱える問題もしっかり盛り込まれていました。
「あんたがそれほど不幸だと言うなら、わたしとあんたの人生をそっくりそのまま入れ替えてあげる。それに抵抗があるうちは、あんたはまだ、世界一不幸ってわけじゃない」
内容★★★★
2010/05/12 (Wed) 13:10
東京創元社
2010年1月
大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水によって、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれに屈折とトラウマ、そして夢を抱く三人はやがてある計画に手を染めた。
すべては「N」のために──。
タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。
主要な登場人物全員の苗字か名前にはNがつき、タイトルどおり「Nのために」という愛のそれぞれの形がテーマになっているのだと思います。
それは、他人から見ればいびつなものかもしれないし、時には狂気にも見えてしまうでしょう。そして思うに、Nは自分自身でもあり、自己への愛も含まれているのだと思いました。
独白形式で「告白」にスタイルは似ていますが、トラウマを引きずっているにしろ、登場人物たちが必死で他人を思いやるこちらのほうが前向きであるといえるかもしれません。
その結末がどうであれ…。
ただ、よかれと思うことでも、他人にとっては苦痛でしかないこともあるということはこの本を読んで身に沁みました。
ちなみに(どうでもいいですが)、私もNです。
内容★★★★