2010/07/28 (Wed) 11:55
集英社
2010年6月
激動の時代を生きた母の生涯を綴る著者初の自伝的長編小説。
「わたしは幸せだろかいね。うん、幸せたい。そうたい、幸せたい」
穏やかな老後を迎え、そう一人ごちていた母。しかし十六の春、婚約者を頼って植民地だった朝鮮半島から単身日本に渡った母の人生には、底知れぬ苦難が秘められていた。
時に感情を爆発させ、時に少女のようなあどけなさを見せた母。その逝去をきっかけに、著者は母の人生と、自らの家族の歴史を振り返る。それは戦中・戦後、日本全体がまだ貧しかったころ、そして人々の間の距離が短く、家族の絆が熱かった時代の記憶だった。
「在日」として生きてきた親子二代の軌跡を辿り、母とは、そして家族とは何かをストレートに問う、感動の一冊。
学生の頃、ということはかなり昔ですが、私の住んでいるところからそんなには遠くないところに朝鮮人の部落があり、怖いから近付いてはいけない、なんてことを聞いたり、駅で日本人と朝鮮人の学生たちの対立があったとかは聞いていましたが、私は直接見たこともなく、また関心もないままでいました。
なので、この本でようやく在日朝鮮人の苦労を知ることになった次第です。恥ずかしながら。本当に知らないこと多すぎです。
思い起こせば、やはりその当時の話には、差別や偏見がにじんでいたと思います。この本を読むまではそのことを忘れていたのですが、今はどうなのでしょう。そんな差別はなくなっていると思いたいのですが…。
日本と韓国、どちらをも祖国と呼べずに中途半端な状態にされた人々の苦しみが伝わってきます。
一番印象的だったのが、戦争特需により、生きながらえたということです。
戦争は勿論あってはいけないのですが、その戦争による景気回復がなければ生き延びることができない人々もいたという事実に、なんとも複雑な心境でした。
子供が独立していくときの、うれしさと寂しさの入り混じった憤りというか、そのあたりもうまく描けていると思いました。
いろいろ考えさせられる本でした。
内容★★★★
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2010/07/27 (Tue) 18:20
講談社
2010年5月
わたしはもう見捨てない――。
ある事件をきっかけに警察官を辞めた元SPの冬木安奈。六本木のバー「ダズン」で働いていた彼女に、行方をくらましていた元チェス世界王者の"天才"アンディ・ウォーカーの警護依頼が舞い込む。依頼者の宋蓮花は、「アメリカ合衆国大統領に狙われている」というが……。
「ジョーカー・ゲーム」でブレイクした柳広司さんの新作ですが、少々期待はずれというところでしょうか。
金城一紀さんの「SP」ほどスリリングではないし、チェスにしても小川洋子さんの「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んだ後では二番煎じの感が拭えないです。
ストーリーも人物描写もあっさり目な印象。
せめて魅力的なキャラが一人でもいたらよかったのですが。
それにしても、チェス名人って変わった人ばっかりなんですかねぇ。
内容★★★
2010/07/26 (Mon) 20:58
文藝春秋
2009年7月
宮本武蔵を心の師と仰ぐ磯山香織と、日舞から剣道に転進した変り種の甲本(西荻)早苗。市民大会での出会い以来、高校で部活をともにし、早苗の転校で福岡と横浜に離れても互いに良きライバルであり続けた二人もついに三年生。最後のインターハイでの決戦を目指して東松学園と福岡南、それぞれの高校で稽古に励むいっぽう、目の前に迫ってくる進路選択の問題にも頭を悩ませる。そんななか、早苗は部活中に怪我を負ってしまう。果たして二人の決戦のゆくえはいかに――。
十八歳。人生の岐路に立たされる年の香織、早苗、そして個性豊かな脇役たちの十八歳の決断の物語が織り込まれているのも読みどころ。高校卒業を前につらい恋の決断を迫られた早苗の姉・緑子。香織を導く桐谷道場の師範・桐谷玄明とその兄の知られざる十八歳の葛藤。福岡南高校剣道部顧問・吉岡先生の高校時代にまつわる“武勇伝”の真相。十八歳の誕生日を前に「自分の剣道」を見つけようと奮闘する二人の後輩・美緒。そんな周囲の人々の「十八歳」に励まされるように自分の進む道を選び取ってゆく、香織と早苗の姿が清々しく胸に迫る。青春エンターテインメント、堂々のクライマックス!
今回も期待を裏切らない面白さです。
また、前回とは少し趣向を変えていて、脇役である桐谷先生、緑子(早苗の姉)、吉岡先生、後輩の田原美緒のサイドストーリーが途中に挿入されていて、武士道ワールドがより深く味わえるようになっています。
いいですね、このシリーズ。
キャラへの愛着がますます深くなってゆきます。
これで終りっぽいですが、是非続きやサイドストーリーが読みたいです。
内容★★★★★
2010/07/26 (Mon) 10:36
文藝春秋
2010年5月
昭和6年、若く美しい時子奥様との出会いが長年の奉公のなかでも特に忘れがたい日々の始まりだった。女中という職業に誇りをもち、思い出をノートに綴る老女、タキ。モダンな風物や戦争に向かう世相をよそに続く穏やかな家庭生活、そこに秘められた奥様の切ない恋。そして物語は意外な形で現代へと継がれ……。最終章で浮かび上がるタキの秘密の想いに胸を熱くせずにおれない上質の恋愛小説です。
第143回直木賞受賞。
展開は地味ながら、何故か引き込ませる語りはさすがです。
戦時中であっても、考えてみれば当たり前なのですが、大局が見られないため、実感に乏しかったり、情報操作されていたりする点がリアルでした。
食糧不足とかはあるものの、悲惨なほどの緊迫感がないのも、情報がないとそんなものかなと、納得でした。
日本のニュースだけでなく、もっと視野を広げなければと思わされました。
人と人とのつながり、連帯感…。
何が一番大切なことなのか、考えさせられてしまいますね。
何気に出てくる最後の仕掛けも、やられたって感じでした。
内容★★★★
2010/07/24 (Sat) 15:34
集英社
2010年6月
ある日突然、父親が逮捕! 東京の進学校から一転、変わり者の実のおばさん率いる札幌の児童養護施設の居候となった14歳の陽介。さまざまな出会いに彼は・・・。時代の閉塞感を突き破る、痛快青春ストーリー!
高見陽介、14歳。父が逮捕され、母と離れ離れになったら、未来を拓く「出会い」が降ってきた。児童養護施設に暮らす中学生たちの真っ向勝負の「人生との格闘」、体を張って受け止めるおばさんや大人たちの生きざま…全編を貫く潔さが胸に迫る
よいお話でした。
文章も上手く、最初のページを開いた途端、ぐいぐい引き寄せられます。
この小説には、不幸な境遇にあった人々がたくさんでてきます。
でもみんな、それぞれその境遇に負けることなく頑張って一生懸命生きています。
すべてが上手くいくわけではないけど、それでも一生懸命ってやっぱり恰好いいです。
人生とは、本当の幸せとは、家族とは…。
いろいろなことを考えさせてくれる素晴らしい本でした。
内容★★★★★