2010/10/20 (Wed) 18:43
講談社
2010年7月
ニースの国際学会にお供することになった新米外科医・世良。命じられた秘密ミッションは、伝説の天才外科医・天城に佐伯教授からのメッセージを渡すことだった。一筋縄ではいかないクワセ者の天城を相手に、カジノで一世一代の賭けをした結果、無事日本に連れ帰ることに成功。佐伯と天城の計画する、新しい心臓専門病院の設立を手伝うことになる。しかし、それこそが大学病院内での激しい戦いの始まりだった!
神の手は実在するのか!? 医師にとって大切なのは、患者の命と金、どちらなのか!?
この本単独で読む人もいないと思いますが、お話としては完全に序章で終わっています。
海堂尊さんの本の場合、各作品入り乱れる登場人物の関係をあーだこーだ考える醍醐味が味わえるのが一番の魅力だと思います。
なので、作品を読み重ねていけばいくほど、様々なキャラクターに愛着が湧き、必然的に評価も上がってしまいます。
世良君は後に、「極北クレイマー」で病院債権請負人になっていますが、そうなったわけが本の少し窺えます。天城センセイの影響でしょうね。詳しい経緯は続編で語られるのでしょう。
花房さんが世良君と…には驚きましたが、「ジェネラル・ルージュの凱旋」では速水さんと一緒になるわけで、そのあたりも今後明らかになっていくのでしょうね。
新キャラ天城センセイは、その喋り方が鼻につくものの、金と医療は切り離せないという現実をしっかりみていて、高階センセイが空虚な理想論に囚われているとしか思えなくなるほどにやっつけてしまいます。
でも後に登場しないということは…。う~ん、気になる。
また、「チーム・バチスタの栄光」の桐生センセイも少し顔を出しているところが海堂ファンには嬉しいところです。
それにしても、謎の桜宮が気になります。
多分「螺旋迷宮」に詳しいはずですが、まだ未読なのが悔やまれるところです。
シリーズ物として、しっかり堪能できました。
内容★★★★
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2010/07/13 (Tue) 01:50
新潮社
2010年3月
桜宮市に暮らす平凡な主婦、山咲みどりのもとをある日一人娘で産婦人科医の曾根崎理恵がおとずれる。子宮を失った理恵のため、代理母として子どもを産んでほしいというのだ。五十歳代後半、三十三年ぶりの妊娠。お腹にいるのは実の孫――この子はいったい、誰の子なの? 医学と母性の葛藤をせつなく激しく描く最先端医療小説!
「ジーン・ワルツ」が曾根崎理恵を中心に描かれているのに対し、こちらは母親である山咲みどりの視点で描かれている、いわば補完的意味あいの小説(に私は感じました)。
まったく同じストーリーを追っているため、目新しさがなく、インパクト不足に感じました。
俳句とか、理恵の夫との手紙のやり取りとか、「ジーン・ワルツ」で描かれていない面を出してきていて、工夫しているのは感じますが…。
「ジーン・ワルツ」は単独で成り立ちますが、こちらは「ジーン・ワルツ」を読んでいないと辛い面も多々あると思います。
でもやはり、産婦人科医の問題や、代理出産の問題は再読するほど重要なことではあると思います。
こういう問題提議のある本って、それだけで存在価値を感じてしまいます。
内容★★★★
2010/05/29 (Sat) 00:59
新潮社
2008年3月
美貌の産婦人科医・曾根崎理恵――人呼んで冷徹な魔女(クール・ウイッチ)。人工授精のエキスパートである彼女のもとにそれぞれの事情を抱える五人の女が集まった。神の領域を脅かす生殖医療と、人の手が及ばぬ遺伝子の悪戯がせめぎあう。『チーム・バチスタの栄光』を越えるドラマティックな衝撃があなたを襲う!
これも素晴らしい作品でした。
現在の考え直さなければならない官僚制度への批判、医療問題、出産に対する危険度の軽視などなど、大変勉強になりました。
特に、出産というものがどれだけ危険なものか、生まれてくるということがどれだけ奇跡に近いのかを思い知らされ、命の大切さを改めて認識させてくれます。
勉強になるだけでなく、ラストのたたみかける展開もちょっとミステリー仕掛けで楽しませてくれます。
「極北クレイマー」や「ひかりの剣」とも密接な関係を持ち、それらも併せて読むと面白さ倍増です。
「極北クレイマー」はこの物語の直前のお話で、この物語の舞台となるマリアクリニックの院長の息子三枝久広の逮捕劇が描かれています。
「ひかりの剣」は主役こそ「ジェネラル・ルージュの凱旋」の速水ですが、準主役の清川の若かりし頃の剣道に励む姿が描かれています。
まだ読んでいませんが、「マドンナ・ヴェルテ」は患者側からこの物語を描いたお話、「医学のたまご」はこの物語で生まれてくる双子の一人を主人公にしたお話だとか。(ネタばれになるので、あえて主人公の立場を詳しく書いていません。)
まだまだ読みたい本がいっぱいです。
菅野美穂さん主演で映画にもなるとか。
でも小説を読む限り、映像不可能な場面も多々あるので、期待していいのかどうか微妙ですね。
内容★★★★★
2010/05/22 (Sat) 15:50
朝日新聞出版
2009年4月
赤字5つ星の極北市民病院に赴任した外科医・今中を数々の難局が待っていた。不衛生でカルテ記載もずさん、研修医・後藤はぐーたらだし、院長と事務長は対立している。厚生労働省からの派遣女医・姫宮は活躍するが、良心的な産婦人科医はついに医療事故で逮捕された。日本全国各地で起きている地域医療の破綻を救えるのは誰か?
序盤は明るいタッチで描かれていたのですが、徐々にいろいろな問題点が浮かび上がり深刻になっていく様が印象的でした。
「バチスタ」や「ブラックぺアン」とは違い、同じ医療問題でもこちらは手術とかの描写はなく、病院の財政などに焦点が照てられています。
病院だけでなく、地方自治の問題点。
そして、患者の病院に対する姿勢、マスコミ…。
ありすぎる問題点が、わかりやすく描かれていて、考えさせられます。
「光の剣」の清川や速水が少し登場するファンサービスもあります。
「成功したところで華やかな賞賛も受けず、失敗すれば厳しい非難を受けるものと知りながら、どうしてこの人は淡々と医療に従事し続けられるのだろう、と不思議に思う」
「医師も人間で、エラーやミスもし、責められれば立ち直れなくなる繊細さもある」
「メディアはいつもそうだ。白か黒の二者択一。そんなあなたたちが世の中をクレイマーだらけにしているのに、まだ気がつかないのか。日本人は今や一憶二千万、総クレイマーだ。自分以外の人間を責め立てて生きている。だからここは地獄だ。みんな医療に寄りかかるが、医療のために何かしようと考える市民はいない。医療に助けてもらうことだけが当然だと信じて疑わない。なんと傲慢で貧しい社会であることか」
医療もそうだし、教育も…。
内容★★★★★
2010/05/08 (Sat) 21:38
講談社
2007年9月
一九八八年、世はバブル景気の頂点。「神の手」をもつ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大の「ビッグマウス」高階講師が、新兵器を手みやげに送り込まれてきた。「スナイプAZ1988」を使えば、困難な食道癌の手術が簡単に行えるという。腕は立つが曲者の外科医・渡海が、この挑戦を受けて立つ。
スナイプを使ったオペは、目覚ましい戦績をあげた。佐伯教授は、高階が切った啖呵の是非を問うために、無謀にも若手の外科医のみでのオペを命じる。波乱含みの空気のなか、ついに執刀が開始された―。ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』に繋がる、現役医師も熱狂する超医学ミステリー。
「ひかりの剣」と確かに対をなしています。
ほとんど同時期でシンクロもしているあたり、にくいです。
「ひかりの剣」がスポ魂一直線だったのに対し、こちらは医療ドラマ全開といった感じです。
そりゃあ高階先生、剣道みる余裕はないですね。
「チーム・バチスタの栄光」よりおよそ20年前のエピソードとなっており、勿論海堂ワールドお馴染みのキャラがたくさん登場します。
大学病院の内部の複雑で恐ろしい世界が、わかりやすく描かれています。
今回のメインは、世良、高階、渡海、佐伯といったところでしょうか。それぞれにいい面があって、ホント、キャラに愛着が湧いてしまいます。で、どんどん海堂ワールドに嵌っていってしまうというわけですね…。
タイトルにもちゃんと仕込があり、ラストのパンチとなっています。
良い本でした。
「高階先生は俺に、外科医を辞めるな、と言った。たとえ患者が目の前で死んでも逃げるな、目を逸らすな、と言った。俺は先生の教えに従う。俺は外科医です。患者を生に引き戻すためなら万難を排して総ての手を打つ。俺は外科医を辞めない。辞めるもんか。でも、目の前で患者が死ぬのを見るのは絶対にイヤなんだ」
内容★★★★★