2011/08/17 (Wed) 17:09
光文社
2011年6月
七十五歳になる道久礼二郎は、六年前に妻を脳溢血で失った。ただ威張り腐っているだけのダメ亭主だったが、女房は文句を言わずに尽くしてくれた。生前ありがとうの言葉ひとつかけてやれなかったことが悔やまれる日々が続く。いっときは「要介護1」の認定がでるまでに心身は衰弱した。息子夫婦と同居し生活援助を受け、洗顔と入浴と着替えの習慣がつくと、やがて一人で妻の墓参にも出掛けられるようになった。嫁が申し込んで、嫌々ながらも、老人クラブの絵画同好会に入会した。六十代後半が中心で礼二郎は四番目に高齢だった。彼は、六十四歳の岩崎幸子と知り合う。エキゾチックな顔立ちや上品な笑みにも増して、身のこなしの軽やかな華やかな人だった。礼二郎の辛い話を、彼女は親身になって聞いてくれた。二人が親密さを増したころ、内緒で買った携帯電話のメールのやりとりを息子夫婦に見られてしまった。その女性とはどのような関係で、何をしている人かと問い質された。その後、二人の会話が聞こえてしまう。親父名義の土地を生前贈与したほうがいいかと話していた。礼二郎は幸子に、なぜこんな老いぼれの相手をしてくれるのかと訊ねる。「そんな言い方、やめてください」と幸子は言って、彼女は凄まじい過去を語り出した。──制限時間迫る、高齢者の物語が炙り出すのは、究極の恋愛か。
テーマ競作小説「死様」の1冊。(これで3作目)
生きている限り避けることの出来ない老い。
礼二郎にじわじわと押し寄せてくるその老いが、辛くて哀しかったです。
歳をとり、ようやく相手を慮ることが出来るようになったときには身体の自由も利かなくなっていて、記憶も留めておくことができず…。
人間って不合理ですね。
迷惑になることがわかっていても、誰かに看取られて死にたい。そんな本音にはっとさせられました。
内容★★★★
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