2011/08/13 (Sat) 14:25
徳間書店
2011年6月
大学で研究する和弥は、恩師の娘を嫁に貰った。ある日、帰宅すると妻が猫になっていた。実は和弥は、古き時代から妖(あやかし)に立ち向かう蘆野原(あしのはら)一族の若き長。幼馴染みで悪友の和泉と、猫になった娘とともに、文明開化の世に出没する数々の災厄を防いでいく。陰陽師や祓師のような力を持つ主人公と悪友との軽妙なやりとり、猫になったときの記憶がない美しい妻との叙情的な日常を、丹念な筆致で描く幻想小説。
雰囲気のとてもよい本でした。
詳しい説明がなく不明な部分が多いのも、よけいに幻想的に感じられてよかったです。
明瞭じゃないものはあまり好きではないはずなのに、なんだろう、この本。
束の間の夢を見ていたような、不思議な感覚。
登場人物がみんな優しいのも気に入っています。
「三人の暮らしがやがてどんな結末を迎えるのかは判らないが、為るように為るのだろう。たぶん、世界とはそのようなものだ。」
私もいつか、和弥のように思うことが出来るだろうか。
内容★★★★★
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2011/04/09 (Sat) 10:26
ポプラ社
2011年1月
僕らが通う、中高一貫教育で知られた伝統ある〈赤星学園中等部・高等部〉は、今は〈赤星中学校〉と〈赤星高校〉という名前になってる。
赤い星っていうのは火星のことで、戦いの神様らしい。そのせいじゃないだろうけど、何故か伝統的に文化部と運動部の戦いが続いているんだ。
放送部の顧問の先生、コウモリは言う。
「放送部が唯一、運動部と文化部を結び付けられる平和の使者〈ピースメーカー〉になれると僕は思ってる。部の活動を把握して、取材から現場の仕切りから放送まで、すべてにおいて彼らを結べるのが、放送部だ」
運動部と文化部を繋ぐ架け橋となって平和をもたらすもの。
まさしく、ピースメーカー――
舞台は1974年の中学生時代。
私より若干世代は上だけど、小道具とかアーティストとか曲目とかは概ねわかったかな。
ロックが論争となる、そんな時代だったんですね。
部活にかける情熱は眩しくも爽やかで、王道ともいえる青春小説として安心して読めると思います。
伝説といわれている初代ピースメーカーのエピソードがほとんどないのが残念でした。別で出るのでしょうか?
内容★★★
2010/10/28 (Thu) 09:32
祥伝社
2010年8月
“さくらの丘”を満ちるたちに遺す―。遺書には、祖母が少女時代を送った土地を譲ると書かれていた。一緒に渡されたのは古びた鍵がひとつ。祖母の二人の幼なじみも、同じメッセージをそれぞれの孫たちに伝えていた。なぜ、彼女たちは孫にその土地を遺したのか。鍵は何を開けるものなのか。秘密をさぐりに三人の孫は、祖母たちの思い出が詰まった地を訪れた―。三人の少女たちの青春が刻まれた西洋館、そこを訪れた私たちが見た光景は―二つの時代が交差する感動の物語。
過去と現在が交互に少しずつ進行して徐々に真実が明らかになっていく過程が、ミステリー風で結構惹きつけます。
戦争が残した傷痕がここにも…。
これは、戦争に対するささやかな抵抗の物語といえるのかもしれません。
ただ、結構要となる人物の最期があっさり説明で終わってしまったのはちょと勿体なかったかな。
読後感は爽やかでいい感じです。
内容★★★★