2010/11/02 (Tue) 13:14
木楽舎
2010年8月
ANAグループ機内誌『翼の王国』の連載をまとめた『あの空の下で』に続く、“空”シリーズ第二弾。映画のタイトルを冠にしたショートストーリーと、自身の旅の記憶を綴った二部構成。一目惚れした香港人のガールフレンドの帰省に付き合い、一族で食事をいただく『恋人たちの食卓』、同僚に紹介された女性との恋の行方を、気にしたこともなかった星占いにたずねてみる『桜桃の味』。派手でドラマチックな事件などひとつも起こらない。路上や食卓、職場。ありきなりなロケーションで、足を止めたくなる出来事たちを閉じ込める。ブータン、ニューヨーク、台北、自身の旅先での風景も、ショートストーリーと変わらない。双子のようなエッセイと小説がひとつの作品集に収められている。
短編は空や旅を意識してか、とにかく爽やかです。
短いながらもドラマ性があり、うまくまとまっている最初の「女が階段を上る時」と最後の「桜桃の味」がよかったと思います。
エッセイでは、ニューヨークのエピソードが気に入っています。
読んでいたら、旅に出たくなってしまいました。行けないけど。
内容★★★
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2010/05/25 (Tue) 00:33
朝日新聞社
2009年9月
横道世之介、長崎の港町生まれ。その由来は「好色一代男」と思い切ってはみたものの、限りなく埼玉な東京に住む上京したての18歳。嫌みのない図々しさが人を呼び、呼ばれた人の頼みは断れないお人好し。とりたててなんにもないけれど、なんだかいろいろあったような気がしている「ザ・大学生」。どこにでもいそうで、でもサンバを踊るからなかなかいないかもしれない。なんだか、いい奴。
「2010年本屋大賞第3位」ということで読んでみましたが、この作者の吉田修一さんって、「2008年本屋大賞第4位」の「悪人」の著者でもあったんですね。全然作風が違うので驚きました。
この作品、もう読んでる最中、笑えて笑えて。なのに、何故か胸がちょっと切なくなるという不思議な本でした。
物語は1980年代後半の1年を通して描かれていますが、途中途中世之介を取り巻く登場人物の20年後が描かれていて、それが一層胸を締め付けます。
世之介は結構みんなの胸に残っていて、それは世之介の計算高くなく飾らない人柄からなのか、それはとても幸せなことなのかもしれない、なんて思ったりしました。とりたてて何かを成し遂げたわけでもないのに、人の記憶に残り続けるというのは、簡単なことではないように思えます。
一番心に残ったのはこの文章でした。
大切に育てるということは、「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失った時にどうやってそれを乗り越えるか、その強さを教えてやることではないかと思う。
内容★★★★★
2009/03/05 (Thu) 10:47
朝日新聞社
2007年4月
なぜ、もっと早くに出会わなかったのだろう――携帯サイトで知り合った女性を殺害した一人の男。再び彼は別の女性と共に逃避行に及ぶ。二人は互いの姿に何を見たのか? 残された家族や友人たちの思い、そして、揺れ動く二人の純愛劇。一つの事件の背景にある、様々な関係者たちの感情を静謐な筆致で描いた渾身の傑作長編。
2008年度本屋大賞第4位
この本の前に読んだ「一瞬の風になれ」の爽やかさと打って変わって、こちらはドロドロのイメージ。
あまりにリアルすぎて、ああこれが現実なんだなぁと嫌でも認識させられて、読んでいて辛かったです。
登場人物も、どうしようもなく嫌な奴が何人かは登場します。
これを読むと、本当の意味での「悪人」を裁くシステムはこの国にはないんだと、改めて認識し悲しくなってきます。
考えさせられるいい本でした。
最後は涙が止まらず、読むのを中断しなければならないほどでした。
ニュースや新聞を見て、表面だけで判断するのはやめるべきですね。
そこには当人たちだけにしかわからない事情があるのだから…。
内容★★★★★